陰陽退魔士・逢坂蘭子/第一章・夢魔の標的
其の伍 「実は追いはぎ事件の起こった夜に限って、お兄ちゃんの帰りが遅いのよ。しかも、いつ も大きな鞄を抱えているし、もしかしたらお兄ちゃんが犯人じゃないのかと」 「考えすぎじゃないの?」 「女の第六感よ」 「そんなもの?」 「真相を確かめるために、これからお兄ちゃんの部屋に侵入するわ。それで蘭子にもつい て来て欲しいのよ」 「は? 私を呼んだのはそんなことのために?」 「そうよ。最近物騒なことが多いじゃない。たとえば魔物なんかに取りつかれていたら怖 いじゃない」 「で、私をも巻き込もうとしているのね」 「だって、蘭子のところは代々陰陽師家でしょう? 祭礼の時なんか巫女さんの服着て、 神社のお手伝いしてるじゃない。祓い櫛かなんかでお祓いしちゃえば」 「あのねえ……。アニメに感化されすぎよ。祓い櫛があれば悪霊退散できるわけじゃない わよ。霊能者が事の始めにまず身を清め、祓い櫛を清め、精神統一して、という具合に順 序を踏まなきゃ。だいたい祓い櫛なんか持ってきてないしね」 「そんなあ……」  がっかりの表情を見せる智子。 「まあ、いいわ。とにかくその部屋を覗いてみましょう」  立ち上がる蘭子。  少しでも疑惑が生じたら確認してみるに限る。  よっしゃあ!  とばかりにガッツポーズを見せて、智子も後に続く。 「何よ、そのポーズは」 「いえね。蘭子がいれば鬼に金棒かと思ってさ」 「何だかなあ」  兄の部屋だという扉の前に立つ二人。 「ちょっと待ってね。今、開けるから」 「鍵を掛けてるの?」 「うん。プライバシーを尊重してるから」 「で、なんで智子が鍵を持っているの?」 「あ、これはマスターキーだから」 「マスターがあるなら意味ないじゃない」 「母が管理してるのよ。昨夜事件のことの事情を話したら、疑わしいことがあるのなら、 自分の目で確かめなさいって、渡してくれたのよ」 「なるほど……」  マスターキーを使って、兄の部屋に入る二人。  男の子の部屋ということで、乱雑になっているかと思ったが、意外にもきれいに片付い ていた。 「探すとなれば、ここしかないわよね」  言いながら、洋服ダンスの取っ手に手を掛ける智子。  しかし凍りついたように身動きしなくなった。  開けるのが怖い。  想像通りだったらどうしよう。  もし当たっていたら、これからどのようにして一緒に生活していけばよいのか。  そんな思いが交錯して固まってしまったのである。  蘭子も、その気持ちを察して、じっと待っている。  ふっと、ため息をつき、続いて大きく深呼吸して手に力を入れる智子。  思い切って取っ手を引く智子。  洋服ダンスの中身が目に飛び込んでくる。  その場に、へなへなと崩れてしまう智子。 「こんなことって……」  言葉に詰まって途方にくれる智子だった。  洋服ダンスには、ワンピースドレスやスカートスーツなどの女持ちの衣装が並んでいた。 「やっぱりお兄ちゃんが犯人だったのね……」  もはや疑いのない事実となってしまったようである。
     
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