陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪

其の拾 公園  ゆっくりと周囲を見渡す蘭子。  公園の入り口付近には外灯があるが、夜間にはここまでは届かず薄暗いだろうと思わ れる。  外灯の届かない公園の片隅に、何の用で立ち寄ったのだろうか?  トイレは入り口付近にあるし、公園の奥まった場所で帰宅の近道にもならない。  疑問が沸き上がる。 「殺害現場はここで間違いないのですか?」 「いや、はっきりしていない」 「といいますと?」 「発見場所はここなのだが、それにしては流れ出ている血液の状態がおかしいのだよ」 「別の所で殺害されて、ここへ運び込まれた?」 「その通り。流血状態と血液凝固の状態から、殺人現場がここではないということを示 している。傷口の状態を見ると、ここで殺害されたならもっと広範囲に血液が飛び散る はずだし、流れ出た血液の地面への浸透具合もおかしい」 「実際の殺害現場を探さなければというところですか」 「その通りだ」 「遺体を動かさなければならなかったのは、その場所が犯人を特定する重要な証拠とな るからですね。例えば、犯人か被害者の自室だったなど」 「うむ、その線は濃厚かもしれないな」 「課長。この事件には、消えた胞衣壺が深く関わっていると思うんです」 「ふむ、またぞろ怨霊とか?」 「そうとしか考えられません」 「で、何か方策とあるのかね」 「解体された旧家ですが、その家族の消息とか、胞衣壺が埋められて以降に何か事件が 起きていなかったどうかとか」 「埋められて以降かね。そもそもここら辺一帯は、太平洋戦争時の大空襲で焼野原にな っているから、戦後復興以降だよな」 「空襲時に、掘り返して持ち出したということもあります」 「何故そう思う?」 「胞衣壺の風習は戦前までで、戦後はほとんど行われていません。胞衣壺に関わる人物 背景を知る必要があります」 「なるほど、調べてみるよ」 「お願いします」  以降のことを確認しあって、分かれる二人だった。  その夜、神田家の門前に佇む蘭子。  美咲に会って話してみたいと思ったのだが……。  その窓は暗いままで、中の様子は静かだった。  葬式の直後に訪問するのは、流石に躊躇われる。  哀しみにくれる親子の心情を思えば。  心苦しくも神田家を立ち去る蘭子。
     
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