冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・3

メニューへ  命からがらすぐ近くのオリコレ村に避難する二人だった。 「ふうっ……。何とか逃げおせたわね」  汗を拭うナタリー。 「おうよ。はじめて戦闘ってやつを経験できたぜ」 「あれのどこが戦闘よ! ただ一方的にやられていただけじゃない」 「そうなの?」  戦闘などという経験のない勇者からしてみれば、魔物と遭遇しただけでも、戦闘 したと感じされるに十分だろう。 「だいたい、HPも半分以下になって平気でいられるなんて。不感症なの?」 「馬鹿な。女とやっても、ちゃんと感じるぞ」 「感じる場所が違う!」 「同じだと思うが」  意味を全く理解していないようだ。 「とにかく……。こんな体力馬鹿のステータスじゃ、モトス村にたどり着くのは無 理ね」 「冒険もここで終わりというわけだな。いい経験をしたと思えばよいのだ」 「10000Gをあきらめろというの?」 「貸した金と、失った友情は戻らないというぞ」  飄々とした表情で答える勇者。 「誰があきらめるものですか。なんとか休み休み……。って、ちょっとあんた!」 「なんだ? じっと見つめて」 「HPが999!? 回復してる……」 「うん。元気はつらつだ」  あれだけの攻撃を受けながらもピンピンしている勇者に驚く。 「薬草とか、飲んだの?」 「薬草ならおめえが持ってるじゃないか」 「そうね。渡した覚えはないし」 「だから、俺は体力には自信があると言ったじゃないか」  そっちとこっちの体力の定義に疑問があるが。 「なんて回復力なの……。信じられない」 「女とやっても、すぐに回復するぞ。抜かず千発は得意中の得意だ」  意味を取り違えているようだ。 「ともかく……。その体力馬鹿なHPと回復力を頼みにして、何とかモトス村まで たどり着くめどがついたわね」 「7800Gだな。もらったぜ」 「問題はあんたのすばやさよ、【1】しかないんだからとうてい、戦闘から逃げ出 すことはできないじゃない」 「さっきは逃げ出せたじゃないか」 「あたしが手を引いてあげたからよ。あなた一人じゃとうてい逃げられない」 「そうだったのか。やさしくしてね」  と、手をスリスリ頭ヘコヘコしている。 「攻撃力や防御力はともかく……。素早さを上げることを考えましょう」 「逃げるためにか?」 「決まっているじゃない。戦えないなら、逃げ出すのみよ」 「方法はあるのか?」 「素早さを上げるアイテムを買うしかないわね」 「そんなものがあるとしても、金なんかないぞ。城下町で有り金全部使ったじゃな いか」 「しようがないわね。買った武具を売って金にするしかないわね」 「この短剣を売るのか?」 「使いこなせないものを持っていてもしかたがないじゃない。たかが攻撃補正値5 くらいじゃ、少しもおしくないわ」 「ばっちゃんがよく言っていたぞ。『物は大切にしなきゃならんぞえ』ってな」 「しようがないでしょ。こんなことになるとは思わなかったからよ」 「で、本当に売れるのか?」 「道具屋があるから、そこで売れるわよ」 「道具屋か、どこにあるんだ?」  手を額の前にかざして、キョロキョロと探す風の勇者。 「村の東のはずれにあるわ」 「良く知っているな。来たことがあるのか?」 「というよりも、以前ここに住んでいたから」 「で、今は城下町に移り住んで娼婦か?」 「娼婦は余計だわ。女が一人で生きていくには、他の方法がないだけよ」 「でなきゃ、冒険者の仲間入りして、ギルドで賞金稼ぎか?」 「そういうことね。危険だけと、冒険者も選択肢の一つだわね」 「しかし、前にも聞いたが戦えるのか?」 「逃げるしかないあなたよりは、よっぼどね」  目の前に道具屋らしき看板を吊り下げた店が見えてきた。 「着いたわよ」 「ほう……。なかなか良い店作りじゃないか。外見はな」  古風な民芸品のような外観だった。 「入るわよ」 「おじょうさん! 僕と結婚してください!」  店内に入った途端、めざとく若い娘に気がついて、いきなりその手を取って口説 き始める。 「こら! いきなり口説くな!」  と、勇者を引き離す。 「ナタリー、この人は誰?」 「ああ、無視していいわ」  なにやら親しげな二人だった。 「で、今日は何の用かしら、ナタリー」 「武具を買ってもらいたいのよ。そして、素早さを上げるアイテムと交換して欲し いの」 「素早さを上げるアイテム?」 「実はね……」  と、道具屋に耳打ちする。 「へえ……。珍しいわね。というよりも、天然記念物ものね」 「おい、こら!二人で何をひそひそ話し合っている」  毎度のことながら、自分を放っておいて、内輪話をする二人に憤慨している。 「こっちの話よ。ともかくあなたの持ってる短剣を彼女に渡してあげて」 「これか?」  と、短剣を差し出す。 「で、いくらになる?」 「この短剣ですと、25Gになります」 「ちょっと待て。50Gで買ったんだぞ。それが半額とは何事だ」 「馬鹿ねえ。売値は、買った値の半分というのが相場よ」 「そうなのか?」 「はい。そういうことになっております」  武具を買ったり売ったりしたことのない勇者には理解不能である。 「買ったばかりで、二三度モンスターに切りつけただけだぞ。新品同様、ほとんど 新品だ」 「そういわれましても……。規則ですから」 「せめて、もう少し色をつけてくれないか」 「あきらめなさい。この世界ではそういうことになっているんだから」 「知っているぞ。新車を買って、ナンバープレートを付けたら、1mと走らなくて も新古車扱いになるんだろ?」 「どこの世界のお話をしているんですか?」 「日本とか言う、異次元世界の話だ。噂話らしいが……」 「いい加減にしてよね」 「で、いくらだ」 「25G」  いくら知人のパートナーとて、取引実績のない者には当然のこと。  決まりの金額を提示するよりない。 「わたしの旅人の服も買ってね」 「35G+15Gになります」 「なんだよ。+15Gってのは」 「日頃からおせわになっているから。わたしの気持ちです」 「なら、俺にもその気持ちってのを足してくれよ」 「初対面なくせに、何いってるのよ。できるわけないじゃない」 「気持ちなら、できるだろ」 「できないわよ」 「で、いくらだ」 「25G」 「いっぺん犯したろか?」  と、飛びかかろうとする。  突然鳴り響く警報音。  どたどたとなだれ込んでくる衛兵。 「何事だ!」  衛兵の隊長らしき人物が尋ねる。 「な、なんだ。こいつらは?」 「あんたが不埒な行為に出たから、非常ベルを押したのよ」 「で、衛兵がやってきたというわけか」  立場を理解した。 「ごめんなさいね。こうするしかなかったのよ」 「冷たいなあ、僕と君の仲じゃないか」 「何が、僕と君の仲よ」  隊長が、親しげにナタリーに話しかけて来た。 「そういう君は、ナタリーじゃないか。久しぶりだな」 「お久しぶりね」 「で、こいつはどうする?」 「そうね。牢屋で一晩頭を冷やしてもらった方がいいわね」 「わかった。おい、連れて行け」  と、部下に命じる。 「連行されてゆく勇者」 「おい、こら。何をするか! 俺は無実だ」 「確信犯のくせに」 「は、離せ! 俺は勇者だぞ!」 「中身は遊び人のくせに、偉そうなこと言わないの」  勇者は引っ張り出されて牢屋に入れられることとなった。 「これで、良かったのかしら」 「いいのよ。これで少しは反省するでしょう」 「ならいいんだけど」 「それより、素早さを上げるアイテムを見せて」  ケロリとした表情で買い物を続ける。 「いいわよ」  ショーケースからいくつかのアイテムを取り出して拡げる。 「換金した額は75Gになるわね。これは素早さを10上げられるわ。こっちは5 だけど、防御値も5上がる。そしてこれは、素早さ5に攻撃力5ね」 「素早さだけ上げられればいいのよ。最初のでいいわ」 「毎度ありがとうございます」 「これで、何とかモトス村にたどり着けるわね」 「ということは、まだ冒険を続けるつもりなの? 勇者さんと」


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