冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・10

メニューへ 冒険の書・10 マンドレイク 「そんな遠いに道のりを歩いてきたんですか?」  リリアが驚いている。 「それはまた。大変な苦労でしたでしょうね」  途中参加のコンラッドも感嘆している。 「あなた達、ファンタリオン王城からご一緒してたんじゃないんですか?」 「いえ、私は途中で旅を一緒にすることになったんです」 「あたしは、魔物に襲われて死んで魂がさまよっている時に、ナタリーさんの蘇生 術とある方の身体を借りて生き返ったんです」  事情を説明する。 「まあ、その身体は借り物なんですか?」 「はい。身体はこれですけど、中身は女の子です」 「なるほど、どうりでしゃべり方に違和感を感じたのですね」  納得する道具屋だった。 「で、これは何なんですか?」  改めて小箱の中身を尋ねるナタリー。 「ああ、話がそれましたね。これはマジックマッシュルームという薬草から薬効成 分を抽出精製したものです」 「マジックマッシュルーム?きのこの一種ですよね」  マジックマッシュルームは、幻覚成分であるトリプタミン・アルカロイドのシロ シビン、またはシロシンを含む菌類(キノコ)である。  日本では、麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令 にて麻薬原料植物として扱われている。  インターネットにて販売しているのを見かけるが、上記の通り麻薬扱いなので購 入しないように。 「何に使うのですか?」  リリアが尋ねる。 「解呪薬の原料の一つです」 「解呪薬?」  ナタリーも知らないようだった。 「村に入って何かお気づきのことはありませんでしたか?」  質問をする道具屋。 「村人が一人もいませんでした」 「その代わりに猫がたくさんいました」 「村人全員が猫になったのかと……」  一行がそれぞれ感じたことを答える。 「実はその通りなのです。ある魔女によって呪いをかけられているのです」 「魔女の呪いですか?」  リリアが聞き返す。 「それで村には猫しかいなかったんですね」  コンラッドも納得。 「猫にされてしまった村人を元に戻すために、この薬を取り寄せることにしたのです」 「それにしても、あなただけ猫にされていないのは、どうしてですか?」  疑問となっていたことを、ナタリーが尋ねた。 「実は解呪薬があったんです。私もやはり猫にされてしまいました。ところが猫に は解呪薬の入った瓶の蓋を開けられません」 「どうなさったのですか?」 「瓶を棚から落として割ったんです。薬は床の上に散らばりましたが、何とか舐め て呪いが解けました」 「良かったじゃないですか」 「しかし残りの薬には不純物が混じってしまって解呪薬としての効能が失われました」 「それで妹さんに解呪薬を届けるように依頼したのですね。ギルドを使って」 「その通りです」 「それじゃあ、早速解呪薬を作りましょう」  ナタリーが提案するが、 「それが、もう一つ材料が足りないのです」 「それは何ですか?」 「マンドレイクです」  マンドレイク(Mandrake)、別名マンドラゴラ(Mandragora)とは、ナス科、マン ドラゴラ属の植物である。古くから薬草として用いられたが、魔術や錬金術の原料 として登場する。根茎が幾枝にも分かれ、個体によっては人型に似る。幻覚、幻聴 を伴い時には死に至る神経毒が根に含まれる。 「マンドレイク? 以前錬金術師から聞いたことがあります。人のように歩き回り、 引き抜くと悲鳴を上げてまともに聞いた人間は発狂してしんでしまうという伝説が あります」  さすが花売り娘だけあって、植物のことは何でも知っているというような感じだ。 「それじゃあ、採取できないじゃない」 「ですから、飼い犬などを首輪でマンドレイクに繋いでおいて、遠くから犬を呼び 寄せるのです」 「犬は飼い主の元へ駆けだし、首輪に繋がったマンドレイクを引き抜くということ か。しかし、犬は……」 「はい。マンドレイクの悲鳴を聞いて死んでしまいます」 「あたしも聞いたことがあるわ。マンドレイクの取引には、死んだ犬も一緒にとい うことらしいわね」 「まあ、どれも噂ですから……。ほんとのところは誰にも判りません」  道具屋が締めくくる。 「ともかく、そのマンドレイクを手に入れないといけないようですね」 「どこにあるか判っているのですか?」  コンラッドが尋ねると、 「このモトス村から南へ12000マイラほど行ったところに妖精の森があるらしいの ですが、その森のどこかに茂っていると言われています」  と答える道具屋。 「妖精の森ですか? 森に入った旅人を惑わす結界が張られていると聞いたことが あります」 「はい。森に入ったら二度と生きては帰ってこられないとか。だから誰も近づかな いそうですよ」 「うう……。またぞろ人面樹が出てきそうな所ね」  もう御免という表情のナタリー。 「しかし、村人の状況を知った以上は、そのマンドレイクを手に入れるために妖精 の森へ行くべきだと思うのですが」  さすがナイトというべきコンラッドであった。  民のためなら命をも投げ出すだろう。 「生きては帰れないかも知れないのよ。それに、マンドレイクをどうやって採集す るのよ」  抵抗するナタリー。 「マンドレイクなら、犬の代わりに猪などの動物でも良いでしょう。食料は必要で すし、どうせ屠殺してしまうのですから」 「考えていてもしかたがありません。村人を救うためにも妖精の森へ行きましょう」  何故か積極的なリリア。 「冒険に出たことがないリリアが言うような言葉じゃないと思うけど」 「でも、なんとかしたいと思いませんか? 人として」 「気軽に言うものじゃないと思うけど」 「でも……」  自身が男女入れ替えであるがために、猫にされた人間のことにも情を移してしま ったようだ。 「あの……、無理していただかなくても結構です。妹にもマンドレイクを手に入れるよ うに頼んでますし、ギルドにも依頼を出してますから」 「ギルド? 報酬はいくら?」  ギルドの依頼と聞いて、目の色が変わるナタリー。 「マンドレイクを重量100グレンあたり、10000Gです」 「よっしゃー! その依頼、あたし達が請け負った!!」  ギルドの依頼となれば断るには及ばない。  依頼を達成すれば、信頼度が上がりギルドでの地位が昇格するから。 「それはありがたいのですが、この村のギルドの職員もみな猫になってますから、 契約ができないですよ」 「あなたと直接契約はできないの?」 「それはできません。二重契約になりますから」  ギルトと契約を結んだ場合、他の組織や個人に依頼を出すことは禁じられている。 「うう……。なんとかならないのかしら」  頭を悩ませるナタリー。 「村人が困っているのに、黙って見過ごしていくわけにもいかないでしょう」 「そりゃまあ、コンラッドは騎士で、人を助けるのが心情の職業ですものね」 「そのとおりです」  相槌を打つコンラッド。 「いいじゃありませんか。袖触れ合うも多少の縁というじゃありませんか」 「こうしませんか。私が証人になりますから、ギルド後承認契約を結びましょう」 「ギルド後承認契約?」  聞いたことないわ、という風のナタリー。 「たった今、わたしが考え出したものです」 「なんだ、それじゃあ効力がないんじゃない?」 「それは何とも言えませんが、この村のギルドの方々だって猫にされた呪いを解いて もらうんですから。きっと納得していただけるでしょう」 「あやしいものだわね」  疑心暗鬼のナタリーを横目に、コンラッドに語りかける道具屋。 「あともう一人証人があった方が良いでしょう。そこの騎士さんが良いでしょう」 「わたしですか?」 「お見受けしたところ、王国騎士団のナイトの称号を持っていらっしゃるようですね」 「判りますか?」 「身内からあふれる気品が漂っています」  身なりからして甲冑に帯剣、姿勢もピンと背筋を伸ばして、魔物が背後から襲っ てきても、つと振り返りざまに剣を振り下ろす。  そんな風貌のコンラッドだった。 「ナイトって偉いの?」  ナタリーの疑問に、リリアが答える。 「王国のために身を奉げ、国民を守るために死をもいとわずに戦うとか」 「そうです。公式的に認められた身分ですからね」 「いわば、国家公務員上級職みたいなものね」 「なんですか? その公なんとかというのは……」 「官僚天下りでべらぼうな報酬を貰ったり、予算から裏金としてプールしたりして 自分達の遊行費や飲食代として、国民の税金を無駄使いする悪徳役人のことよ」 「ひどい話ですね」 「そのくせ人手が足りなかったからと言い訳して、幼児虐待や育児放棄で多くの 子供たちが死んでいくのを、手をこまねいて見過ごしている職務怠慢な奴らとかね」 「許せないですね。高給をいただいているのだから、24時間血眼になって国民の ために働きなさいといいたいです」 「あの……。何の話しをしておられるのですか?」  道具屋が首を傾げている。 「ああごめん。話がそれたわね、ニポンとかいうおめでたい国のことを言っていた のよ」 「ニポン?」 「海を遥か遠くに渡った、地球の果てにあるという広大な滝のすぐそばにあると噂 されている国でね」 「話を元に戻しませんか?」  閑話休題。  コンラッドが話を戻した。 「ああ、悪かったわね。コンラッドはいい人だから気にしないでね」 「ともかくマンドレイクを採集するために、妖精の森に出かけようと思うんです」 「いよっ! さすが王国騎士、どんな苦難にも挑戦するいい男」 「茶化さないでください」
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