神条寺家の陰謀
partー3  どこからか学校のチャイム音が鳴り響いている。  閉じ込められていた場所から、無事に脱出できたのは良いが、これからどこへ行けばいいのか分からなかった。  催眠剤の副作用なのか、記憶があいまいなのだ。  自分の名前さえも思い出せないのだ。  近くの学校の前をウロウロしていると、背後から声を掛けられた。 「よお! 早いじゃないか」  振り返ると、どこかで見たような顔覚えのある少年だった。 「遅刻するぞ! 急げよ」  というと、さっさと校内へと走り去った。  続いて現れたのは、 「きゃあ~! 遅刻しちゃうよお」  やはり見覚えのある女の子であった。 「慎二君も急いだ方がいいわよ」  というと、やはり校内へと急ぐ。 「慎二?」  辺りを見回すも、自分以外誰もいない。 「俺の名前か?」  思い出せない。 「おい、沢渡!」  今度は野太い声がした。  中年の男が立っていた。 「遅刻だぞ。早く教室へ行け!」  どうやら自分のことを知っているみたいだ。  沢渡、そして慎二……? それが俺の名前なのか? 「教室? どこ?」 「ふざけているのか? 1年A組だろが!」  と言われても意味が分からず、他の場所へ行こうとすると、 「おちょくっているのか? ちょっとこい!」  と言って、職員室へと連行されました。  お説教を喰らって、結局1年A組へと向かうことになります。  1年A組といわれても、校内のどこにあるのか分からず、うろちょろしていると、 「沢渡君、何しているの?」  女性教諭に声を掛けられた。 「いえ……教室が分らなくて」 「何言っているの? 目の前にあるじゃないの」  見ると、教室表示プレートに1年A組と記されていた。 「遅刻ね。まあ、いいわ。今度だけは許してあげるわ。さ、入りなさい」  どうやら俺は、沢渡慎二という名前で、1年A組の生徒らしかった。  女性教諭と一緒に教室に入る。  校門前で見かけた男女もいた。 「席に着きなさい」  手招きしている女子生徒がいた。  その隣の席が空いており、そこに座るように促しているようだ。  席に座ると授業が始まる。  机の上に何もないのもぎこちない。  机の中をまさぐってみると、何冊かの教科書が入っていた。  学校に教科書置いておくなんて、どんな勉強しているのか?  いや、そもそも勉強していないのではないだろうか……。  女性教諭は国語担当みたいだ。  なので国語……あった!  国語の教科書を出して机の上に置く。  そうこうするうちに、授業が終わる。  すると彼の元に、親しげに集まってくる生徒達がいた。 「慎二、酷いじゃない。約束破ったでしょ」 「約束? 何のこと?」 「しらばっくれないでよ」 「そうよ。梓ちゃんにゲームセンターというところを案内してあげると言ってたじゃない」 「ゲームセンター?」 「梓ちゃんが行ったことないっていうから、案内してやるとか言ったでしょ」  考え込んでいる慎二。 「どうしたの? 今日の慎二君変よ」  どうやら二人の女の子は、慎二とは親しい間柄のようだ。  二人は、慎二の身に降りかかった事件を知らない。  彼女らなら大丈夫だろうと、事情を説明すると、 「大変な目に会いましたね」 「そうなると当然、警察が動いてるわよね。下手に動くと警察に捕まって、殺人犯にでっち上げられるかもしれないわよ」 「ほんとうか?」 「当然よ。警察も馬鹿じゃないわ、現場の指紋は取られているだろうし、慎二君は警察のご厄介になって、指紋取られたことあるんじゃないの?」 「そうね。喧嘩は日常茶飯事だもんね」 「お、覚えていないんだが……」 「そっか、記憶がないんだっけ」 「ちょっと待ってね」  梓は、そういうと携帯を取り出して、連絡を入れる。  もちろん専属秘書? の竜崎麗香のところである。  慎二から聞いた内容を話している。  通話が終わり、慎二に向かって、 「ともかく記憶がないというなら、病院で精密検査を受けた方がいいって」 「精密検査?」 「ほら、前にも慎二君が入院した、若葉台研究所付属病院よ」 「って言われても……」  記憶がないからと言いかけて、梓が応答する。 「ともかく記憶を取り戻さない限り、事件を解決することもできないわよ」  精密検査を受けることを承諾して、梓の御用車であるファントムⅥが迎えに来て、若葉台研究所附属病院へと直行した。  下手に出歩くと、警察に捕まってしまう懸念があるからである。  早速VIP待遇で、予約待ちしている一般患者より早く、いの一番で検査が開始される。  警察よりも早く手がかりを見つけるためである。  やがて結果が報告される。 「ベンゾジアゼピン系向精神薬つまり睡眠導入剤ですね、微量ですが検出されました」 「どういうものですか?」 「この薬には頻度は稀ですが、入眠までの出来事や中途覚醒時の出来事を覚えていないなどの症状があらわれる場合があります」 「ということは薬を盛られて、例の部屋に閉じ込められたってことは証明できるかもね」 「処方薬なら、処方箋から購入者を特定できませんか?」 「そうですねえ、この薬は作用が強くて薬物依存症を引き起こすので、一般の睡眠導入剤としては、処方されることは少ないですし、処方箋は薬剤師法により調整済みのものは3年間の保存義務はありますから。ただし、個人情報保護法もあり、患者以外の者に開示されることはないと思います」 「犯罪捜査で警察なら調べることはできそうね」 「どういうこと?」 「処方箋を調べて、慎二君に処方されていないことが証明できれば、他の誰かに薬を盛られたということも証明できるんじゃない?」 「なるほど」 「万が一慎二君が逮捕されたとしても、無実の証明道具として使えそうね」 「言い換えれば、犯人にとっては弱点というわけね」 「どういうことだ?」  それに答えずに、 「そうねえ……慎二。今夜あたしと付き合ってくれるかしら」  と誘う。 「夜中のデートの誘いか?」 「いいから付き合うの付き合わないの?」  何せ、お尋ね者状態なので、単独行動はご法度である。  その日は、絵利香の用意したホテルに滞在して夜を待つこととなった。 「今夜連絡するから、バイクでいつでも出られるようにしておいてね」 「バイクでか? 夜のツーリングもいいもんだぞ」 「バイク乗りってことは覚えているのね」 「え? ああ、なんとなくそう感じたんだ」 「少しずつ思い出せるわよ」 「ともかく、忘れないでね」  その夜の研究所付属病院の敷地。  バイクに乗って戻ってきた慎二と梓。  病院を見渡せる場所に身を隠している。 「病院にまた来るなら、病院の個室や当直室とかで休んでいれば良かったんじゃないのか?」 「だめよ。どこかで監視されているかも知れないから、病院を出たことを確認させなくちゃいけないのよ。でないと次の行動を起こさないから。バイクでの移動も追跡されにくいからよ」 「次の行動ってなんだよ?」 「今に分かるわ……しっ! 来たみたいよ」  病院の職員通用口に近づく影。  怪しげな人物が忍び込もうとしていた。  通用口の鍵をピッキング工具で開けて、研究員に見つからないように、慎重な忍び足で潜入したのはカルテ室だった。  コンピューター端末の電源を入れて、患者を検察する。 「これね」  見つけ出した患者名のカルテ開示ボタンを押すと、電動書類棚の一端が動いて目指すカルテが斜めに飛び出した。  そのカルテに手を掛ける侵入者。  その途端だった。 「そこまでよ!」  背後で強い口調で制止する声。  と同時に部屋の照明が点けられた。  振り返り身構える侵入者。 「たぶん夜襲を掛けて、犯罪の反証明となるカルテを奪いにくると思っていたわ」 「……」 「誰に頼まれたの?」 「……」  無言で答えない。  出口は完全に塞がれている。  取れる行動は一つだった。  ナイフを取り出すと、その首に突き刺したのだった。  その場に崩れる侵入者。  救命しなければ、犯人に繋がる糸を絶つことになるし、おそらくは背後にいるだろう黒幕の正体も見失ってしまう。  幸いにも、ここは最新設備の揃った病院である。  望むと望まぬに関わらず、生命維持させることは可能である。 「救命措置をしてください。手がかりを失うわけにはいきません」  梓の指令のもと、救急治療室へと運び込まれた。  当直の医者達が集まって緊急治療を開始した。  数日後。  侵入者が意識を取り戻したとの報告を受けて、病院へとやってきた梓達。  その部屋は、窓には銃弾をも跳ね返す特殊超硬ガラスがはめられており、外へ出るには医者が常時待機している医局の中を通らなければならないので、気付かれずに逃げ出すことは不可能である。  そもそもが、梓のようなVIP患者を診療する特別部屋でもあったのだ。  入室すると憮然(ぶぜん)としている侵入者がいた。 「気分はどうかしら?」  梓が明るい表情で尋ねると、 「どうして助けた?」  警戒している風だった。 「助けるも何も、死にそうな人がいたら助けるのが病院の責務でしょ。ここは病院なんだからね」 「……」  黙り込む。 「ああ、ここの治療費は心配しないでいいからね。見城春奈さん」 「ど、どうして名前を?」  自分の名前を当てられて、驚いた表情をしている。 「あなたも組織の人ならば、あたしのバックにある組織のことも知っているでしょ? あなたの顔写真や血液型のビッグデータをちょいと調べれば分かるわよ。免許証や受験票などデータとして登録されている情報にアクセスすればね」  心当たりあるという表情をしている見城。 「組織の指令に失敗したあなた、消されるわね」  その一言で、表情が少し青ざめる見城だった。 「慎二君が嵌められたあの部屋の遺体も、指令に失敗して消された組織の人ではなくて?」  黙秘権を行使している。 「あなたの組織って冷酷非情みたいね。いらなくなった部下を平気で見殺しにするんだから。そして、何の関係もない人を陥れることもする。慎二君のことよ」 「……」 「ねえ、この際。あたしの組織に入らない? あなたの組織から身を守ってあげられると思うよ」 「……遠慮する……」  つっけんどんに答える。 「あなたの組織は、当然あなたのことも密かに尾行していると思う。ちゃんと任務遂行しているかどうかをね。もしこのままここを出たら、口を割って組織のことを喋ったと思われて抹殺されるわよ。でもあたし達の仲間になれば、身を守ってあげられるから」  だからといって、 『はい、お願いします』  とは、すぐには即答できないであろう。 「また明日来るわ。答えを出しておいてね」  言い残して部屋を出る梓。 「逃げ出さないように、しっかり監視しておいてね」  医局員に念押しする。 「かしこまりました。二十四時間監視しております」
     
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