梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件
(十)津波のあとで  津波は過ぎ去った。  無事に生き残った生徒達が、恐る恐る地上へと降りてゆく。 「みなさん、大丈夫ですか?」  IRが生存確認を始める。  互いに見合わせるが、 「梓さんがいません!」 「沢渡君も見当たりません!」  念のために島内に届く大声で、点呼を取ってみるが返事はなかった。 「流されたのか?」  一人の女子生徒が前に出た。 「梓さん、あたしを木に登らせようと、お尻を押し上げようとしていたんです。そ の時……」  とここまで言って、顔を手で覆って泣き伏した。  他の女性達が寄り添って慰めている。 「沢渡君は、梓さんが流されるのを見て、救助しようと追いかけるように波に出た ようです」  引率していた生徒が行方不明になったことで狼狽える下条教諭とIR。  無線機は津波に流されてしまって、連絡を取ることができない。  津波が発生したことは、船の方でも分っているはずだから、安否確認のために島 までやってくることを期待するしかない。  それから数時間後。  とある島の砂浜に打ち上げられている梓。  気絶している梓の頬をさざ波が打ち付ける。 「ううん……」  唸るような声を出して、梓が気が付いた。  起き上がって周囲を見回すと、離れたところに慎二が倒れていた。  駆け寄る梓。 「慎二!」  身体を揺すって起こそうとする。 「ううん……」  と一言唸ってから目を覚ます慎二。 「目が覚めたようね」 「ああ……」  辺りを見回して、他の生徒がいないのを確認してから、 「みんなは?」 「いないわよ」 「なぜ?」 「どうやらあたし達だけ、別の島に流されたみたいよ」 「流された?」 「頭打ってない? 大丈夫?」 「大丈夫……みたいだ。それより、ここは?」 「分からないわ。津波に流されて、ここにたどり着いたってところ」 「他の生徒は?」 「それも分らない。ここに流されたのは、あたし達だけみたい」 「そっかあ……」  すっくと立ちあがって、大声を張り上げた。 「誰かいませんかあああ!」  しばらく待ったが、返事はなかった。 「やはり、他には誰もいないようね」  というと、適当な木切れを拾って砂浜に何かを描き始める梓。 「なにやってるんだ?」 「救助信号のS.O.Sを書いているのよ」 「救助?」 「こうやって書いていれば、捜索出動で近くを通ったヘリコプターに 『ここにいるよ!』 って知らせることができるでしょ」  梓ならば、救助ヘリではなくても、宇宙から人工衛星の探査カメラで確認できる だろう。 「慎二の着ているシャツを貸してくれない?」 「なにすんだよ?」 「いいから。でなきゃ、あたしが脱ぐしかなくなるでしょ?」  何かしらんが……という顔しながら、シャツを脱いで渡す。  シャツを受け取ると、信号を描いた棒にシャツを括り付けて、旗のようにして砂 浜に突き刺した。 「これで船からでも、ここにいることが分かるでしょ」 「なるほどね」
     
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