梓の非日常/第二部 第八章・小笠原諸島事件
(一)クラス旅行  小笠原諸島を遊覧する豪華客船があった。  篠崎海運所属のクイーン絵利香号である。  甲板上のプールでは、埼玉県立城東初雁高校一年A組のクラスメート達が、ワイ ワイガヤガヤと興じている。  その中にあって、プールサイドベッドにその身体を預けて、ビキニ姿の真条寺梓 と篠崎絵利香がいる。    そこへ、学級委員長の鶴田公平が、トレー盆にクリームソーダを乗せてやってきた。 「喉が渇きませんか? ソーダをお持ちしました」 「ありがとう」  お礼を言って受け取る梓。 「鶴田君、その恰好さまになってるじゃない」  絵利香が、鶴田の仕草を見て感心していた。 「そうですか? 実は、レストランでウエイターのバイトやったことがあるんです」 「なるほどね」 「今回の旅では、お世話になってますので、  数週間前に戻る。  ホームルームにおいて、学級委員長の鶴田公平が提案をした。 「新入学記念に軽井沢へ行きました。この夏休みにも、どこかへ行きたいと思いま すがいかがでしょうか?」 「賛成!」  多くの賛同者が出た。 「で、どこへ行くんだ?」 「前回は山でしたから、今回は海にしようと思います。夏ですしね」 「いいね!」  ホームルーム後、鶴田が梓と絵利香に相談を持ち掛けて来た。 「絵利香さんは、観光会社やってましたよね。また、推薦コースとか紹介してもら えないかなあ?」 「いいわよ。放課後に会社に行ってみますか?」 「はい。よろしくお願いします」  ということで、篠崎観光旅行会社へと向かった一行。  案内掛かりは、前回と同じく担当吉野を紹介してくれた。 「お久しぶりです。絵利香お嬢様」 「そのお嬢様というのは、止めて頂きません?」  と、鶴田の方に目をやって合図を出した。  財閥令嬢ということは、すでに知れ渡っているが、それを前面に押し出されて言 われると、クラスメートの手前あまりよろしくない。 「失礼しました。絵利香様。今日のご用命は?」 「夏休みに、クラムメートを誘って旅行しようということになりました。それで、 何かお手頃のコースはないものかと伺いました」 「なるほど、軽井沢の時と同じですね」 「高校生のいる家庭が無理なく支払える料金でお願いしたいのですけど」 「そうですねえ……」  と、しばらく考えていたが、 「ちょっとお待ちください」  席を立って、旅行ガイド用のパソコンで調べ始めた。  やがて、資料をプリントアウトして戻ってきた。 「これなどいかがでしょうか?」  資料の写真には、豪華客船を大見出しで取り上げ、世界周遊の旅! 横浜出発百 七日間。 「世界周遊の旅? 夏休みの旅なんですけど……」  鶴田がびっくりしている。 「実はですね。その周遊の旅なのですが、期限間近にも関わらずかなり空席が出て おりまして、この際にクラスメートの旅を楽しんでもらおうと考えました」 「なるほどね。ただ空気を運ぶよりは良いわね」 「ハワイへ向かう航路の途中に小笠原諸島を通過します。そこで下船して頂いて、 別のクルーズ船に移乗し父島などを廻ります」 「小笠原諸島で途中下船するわけね」 「それまでは、たっぷりと豪華客船の船旅を満喫できます」 「いいわ。それで行きましょう」 「分かりました。早速手配致します」
     
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