学園長編小説/梓 第二部
 第七章・船上のメリークリスマス(1)

 12月24日。
 世の中はクリスマス一色でお祭り騒ぎである。
 梓と絵利香の二人もクリスマスパーティに招かれて米国大使館へと向かっていた。
 ファンタムVIの車中にて招待状を広げている梓。
 その姿はパーティードレスに身を包んで、さすがにお嬢様という雰囲気に満ち満ちていた。
「慎二君も一緒に連れてくれば良かったのに」
 てっきり二人揃って参加するものと思っていた絵利香だった。
「ふん。あんな奴を誘ったら物笑いになるだけよ」
 と、鼻息を荒げて答える梓。
 実際にも前例があるだけに、その気持ちも判らないではない。
 二人の会話は、運転席との間に設けられた遮音壁に遮られて白井には聞こえないようになっている。

 田園地帯をゆったりと進んでいる。一般車両みたいに先を急ぐような走りはしない。
 仮にファンタムVIが細い道を塞ぐような状態になっても、クラクションを鳴らして急かしたり、無理やりに追い越そうなどという車はいない。
 黒塗り高級外車=暴力団、という先入観があるからである。
 やがて川越市から富士見市へと続く富士見川越有料道路へと進入する。現在は有料であるが、すでに料金償還を終えて、2009年8月より全区間が無料開放される。
 と、突然。
 後方から猛スピードで追い上げてくる数台の自動車があった。
 追い越しざまファンタムVIの前を封鎖するように急停車した。
 さらに側面と後方にも停車されて身動きの取れない状況となった。
「な、なに?」
 怯えたように絵利香が震えている。
「あたし達の追っかけファン……というわけでもなさそうね」
 車外を見つめながら梓が答える。
「よく、落ち着いていられるわね」
「この程度のことじゃ、驚かなくなっていてね」
 確かに、命を失う危険のある出来事に何度遭遇したことか。
「お嬢様、賊が出てこいと言っておりますが」
 窓ガラスは防弾・防音となっているので、外の音は梓たちには聞こえない。運転上の必要性から白井だけに、外の音が聞こえるようになっている。
「ここは、おとなしく言うことを聞くしかなさそうね。ドアロックを開けて」
「かしこまりました」
 ドアロックは運転席で白井が操作するようになっている。降りる際に不用意にドアを開けて、後続の車両に追突されるのを防ぐためである。白井は周囲に常に気を配って乗降の確認を取っていた。
「開けました」
 ドアロックを解除する白井。
 ドアを開けて車を降りる梓。
 絵利香も続いて降りる。
 その時だった。
「きゃあ!」
 悲鳴を上げる絵利香。
 暴漢者達が絵利香を抱きかかえるようにして乗ってきた車に押し込み、急発進して逃げ出したのである。
「絵利香ちゃん!」
 残された梓だが、立ち塞がるようにしている居残りの暴漢者達に遮られて身動きできなかった。