続 梓の非日常・第四章・峠バトルとセーターと

(二)峠にて  日曜日の朝である。  いつものように、麗華に髪を梳かしてもらっている梓。 「バイクということですから、今日はポニーテールにしましょうね」  髪型についてアドバイスする麗華。 「ねえ、麗華さん。あたし、本当に慎二君とデートの約束したの?」 「はい、間違いありません。『たぶん忘れてたりするから、その時は教えてくださ い』と念押しなされました」 「うーん……絵利香ちゃんも言ってたけど、あたし記憶がないのよね」  言いながら着替えをはじめる梓。  バイクに跨るのを考慮して、黒地に白い動物の絵柄の入った厚手のタイツにミニス カート。そして上着はフェイクムートンジャケットで決まりだ。梓にパンツスタイル は似合わないとの麗華のチョイスである。 「お嬢さま、沢渡様がお見えになりました。玄関ロビーにお通ししてあります」  メイドが知らせに来た。 「もう来ちゃったの?」  しようがない。  といった表情で、部屋を出ようとすると、 「これを忘れないでください」 「なにこれ?」 「慎二さまへのプレゼントでしょう? 昨夜に編みあがったばかりの手編みのセー ターですよ」 「あたしが、セーター編んだ?」 「きっと喜ばれますよ」  とセーターの入った紙袋を手渡される梓だった。 「どうも納得できないな……」  何もかもが自分のあずかり知らないところで回っている?  階段を降りると、玄関ロビーの応接椅子に慎二が座って待っていた。 「よう!」  片手を挙げて迎える慎二。 「早かったな」 「初めてのデートだからな」 「ほれ、これやるよ」 「お! なんだ?」  紙袋を開けて確認する慎二。 「おお! セーターじゃないか。梓ちゃんが編んだのか?」 「一応、そういうことらしい」 「へえ、意外だな」 「いらないなら、返せよ」 「いや、貰っておくよ」  と言って、頭からセーターを被る慎二。 「温まるぜ」 「そりゃあ、……手作りだからな」 「よっしゃあ、そろそろ行くか?」 「そうだな……」  立ち上がる慎二。  玄関前。  すでにバイクに跨ってエンジンの調子をみている慎二と、見送りに出ている麗華や メイドたちに挨拶している梓。 「ほれ、ヘルメット。買ったばかりで使ってないから、変な匂いとかつかないから安 心しろ」 「あ、そ」  ヘルメットを被りバイクに跨る梓。 「それじゃあ、麗華さん。行ってきますね」 「お気をつけて」  重低音と共に、二人を乗せた自動二輪が走り出す。 「で、どこへ行くんだ?」 「え? なに?」  風切って走る自動二輪。しかもヘルメットを被っていては会話は難しい。 「どこへ行くのか、って聞いてるの!」  しかたなく大声で話しかける梓。 「ああ、正丸峠だよ」  慎二も大声で返してくる。 「しょうまる?」 「この辺で峠走りのできるのは、そこしかないしな」 「なんで、デートに峠走りなんだよ?」 「あはは、梓ちゃんに合わせたんだよ」 「何でだよ」 「だってよ。映画館とか遊園地って柄じゃないだろ?」 「そりゃまあ……そうだけど」  確かにその通りだった。  映画館は眠くなるだけだし、遊園地で遊ぶような女の子じゃないつもりだった。
     
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