プリンセスドール/自覚して(2)

 抱きかかえられて、風呂に運ばれていく。  すでにお湯が張られているだろう湯船に、静かに身体を沈められていく。  温かくて気持ちが良かった。  え?  ちょっと待てよ。  どうして温かいと……。  皮膚に温感が生じている?  さらに、身体を洗うブラシの触感。  そして身体に付いた泡を落としているのだろう、シャワーの皮膚にあたる痛感もあった。  次々と発覚する知覚現象。  刺激に対する感覚が呼び起こされていた。  もしかしたら風呂に入ったことで、新たに与えられた刺激が脳に伝わり、感覚神経の再 生という症状を引き起こしたのではないだろうか?  刺激に対する身体の反応。  それは生命の根幹に関わる重要なものである。  風呂の時間が終わった。  再びベッドに戻される。 「きれいになったね。ほんとうに君は美しい」  どうやら垢を落として綺麗になったこの身体に見惚れているようだった。  きれいだ。美しい。  そう言われて怒る女性は、まあいないだろう。  まんざらでもないと感じるようになっていた。  いずれすべての感覚を呼び覚まし、動けるようになるはずである。  外を出歩くようになり、すれ違いざまに男たちはため息をつく。  私が理想とする女性像に作り上げたのだ、それは間違いのないことであろう。  自分の将来は明るい。  ……はずだった。  次の助手の声を聞くまでは。
     
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