プリンセスドール/目覚め(3)

 これまでに得たというか、聞こえた情報を統合してみると……。  まるで植物人間のような身体。  流動食で生きながらえている。  助手が先生と呼ぶ人物の死亡。  そして美貌なる女の子。   導かれる結論は一つ。  私の意識は、プリンセスドールのバイオ人工頭脳に閉じ込められ、私自身の身体は何ら かの事故で死んでしまった。  早い話、私はプリンセスドールになってしまったのだ。 「警察がまた来るかも知れないから、もうしばらくここで我慢してね。真っ暗じゃ怖いだ ろうから、電気は点けておいてあげるよ。ゴキブリが這い回ったり、ネズミとかが出てき てかじられると大変だから」  といって、助手は隠し部屋を出て行った。  動けない身体の上をゴキブリが這い回るところを想像してしまった。  思わず身震いしてしまう。  ましてやネズミにかじられるは……。  いや、これ以上考えるのはやめておこう。  相変わらず外から入ってくる情報は時計の音だけだ。  聴覚だけが生きている。  いや、内臓の感覚もあったな。  プリンセスドールになってしまった現状を、もう一度冷静になって考えてみる。  この身体。  完璧に作り上げたはずだ。  まったく人間と同じ臓器を持ち、体内を循環する血液は、呼吸によって肺から心臓を経 て酸素を送り込み、食べた物は消化器官で消化吸収されて栄養となる。  正真正銘、生きているのだ。流動食による栄養摂取がなければ確実に死んでしまう。  まさしく人間そのもの。  だが、この私をしても、どうしても動いてくれなかった。  バイオ人工頭脳にインストールするプログラムがなかったからである。  だが、今はどうだろう。  プリンセスドールのバイオ人工頭脳には、私の意識が宿っているのだ。  ではなぜ動かせないか?  おそらく、まだ精神と肉体が融合していないからではないか?  それが証拠に、音だけは聴くことができるじゃないか。  いずれ時間の経過と共に、目が見え喋ることができるようになる。  そして自由に歩きまわれるだろう。  私が作り上げた精緻にして最高の人造生命体……そのすべてを知り尽くしている。  確信を持って言えるのだ。  時が解決してくれるはずだ。
     
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